交通事故被害者の方へ〜素因減額〜
公開日:2019/11/08
交通事故の前から頚椎椎間板ヘルニアを持っていた!
私は通常の人より首が長いから
交通事故で発生したバレリュー症候群が悪化した!
など
交通事故被害者の方が
交通事故被害と
元々持っている身体的特徴や疾患が競合して
損害が発生した場合
又は
交通事故被害が
元々持っている身体的特徴や疾患により
拡大した場合
交通事故被害者の方が
交通事故加害者に対し
損害賠償請求した場合
どうなるのでしょうか。
その場合は
素因減額の問題になります。
このコラムでは
素因減額について
ご説明いたします。
交通事故被害者の疾患をしんしゃくすることの可否
この点
最高裁判所平成4年6月25日判決は
交通事故と
被害者の素因(もともと被害者が持っていた疾患)
とが競合して
損害が発生又は拡大したと認められる事案で
交通事故被害者の疾患を斟酌することはできる
と判示しました。
詳しくご説明すると
この事案は,
交通事故被害者の素因のために
損害が拡大した場合ではなく
交通事故被害者が元々持っていた疾患が
損害の発生そのものに影響している
という場合でした。
この場合
そもそも交通事故のせいで
損害が発生したとは言えないのではないか
という考えもあるのです。
というのは
交通事故被害者が
元々疾患を有していなければ
そのような損害は発生していないから
交通事故と損害との間で
そもそも因果関係はないのではないか
という問題意識です。
しかし
この場合は
交通事故との間の因果関係を認めるのが
裁判所の考え方です。
結局
交通事故がなければ
そのような損害は発生していない
から
因果関係は認められるべき
という考え方です。
しかし
この場合
発生した損害全てを
交通事故加害者が負担するというのは
公平の観点から
許されないのではないか
という問題意識です。
上記最高裁判所判決は
以下のとおり判示しています。
「被害者に対する加害行為と
被害者の罹患していた疾患とが
ともに原因となって損害が発生した場合において,
当該疾患の態様,程度などに照らし,
加害者に損害の全部を賠償させるのが
公平を失するときは
裁判所は,
損害賠償の額を定めるに当たり,
民法722条2項の過失相殺の規定を
類推適用して,
被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと
解するのが相当である。」
結局
素因減額されて
発生した損害額から減額することができる
というのが結論です。
この事案は
交通事故被害者の素因のために
損害が拡大した場合ではなく
交通事故被害者が元々持っていた疾患が
損害の発生そのものに影響している
という場合でしたが
損害が拡大した場合
すなわち
疾患のせいで治療が長引いた
疾患のせいで病状が悪化した
場合も当てはまることになると
考えられています。
疾患ではなく,身体的特徴だった場合は素因減額されるの?
では
交通事故被害者が元々有しているものが
疾患ではなく
身体的特徴だった場合はどうなるでしょうか。
この場合は
最高裁判所平成8年10月29日判決が
判示しています。
いわゆる
首長判決
といわれているものです。
この事案の交通事故被害者は
通常人よりも
首が長かったので
このように言われています。
具体的には
以下のように判示しました。
「被害者が平均的な体格ないし
通常の体質と異なる身体的特徴
を有していたとしても,
それが疾患に当たらない場合には,
特段の事情の存しない限り,
被害者の身体的特徴を
損害賠償の額を定めるに当たり
斟酌することはできない
と解すべきである。
けだし,
人の体格ないし体質は,
すべての人が
均一同質なものということはできないものであり,
極端な肥満など
通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴
を有する者が,
転倒などにより重大な障害を被りかねないことから
日常生活において
通常人に比べて
より慎重な行動をとることが求められるような場合は各別,
その程度に至らない身体的特徴は,
個々人の個体差の範囲として
当然にその存在が予定されているもの
というべきだからである。」
そして,
この最高裁判所の事案である
首が長くこれに伴う多少の頚椎不安定症があった場合は
素因減額することは相当ではない
とされました。
この最高裁の判決は
通常の加齢による骨の変性
個体差の範囲内に属する
身長の高低及び体重の軽重など
明らかに疾患に当たらない体質的素因については
交通事故被害者が
これを有していても
素因減額するべきではない
と考えているようです。
まとめ
以上のとおり
元々交通事故被害者に存在しているものが
疾患に該当するのか
疾患に至らないただの身体的特徴に該当するのか
により
素因減額されてしまうかどうか
変わってくることになります。
例えば
頚椎椎間板ヘルニアを有していた場合も
それが通常の加齢に伴う変性の範囲内のものと評価されれば
素因減額されないということになります。
しかし
通常の加齢に伴う変性を超えるものと評価されれば
素因減額されるということになります。
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参考文献
最高裁判所平成4年判例解説198頁 著:滝澤孝臣
最高裁判所平成8年判例解説817頁 著:長沢幸男
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