遺言無効確認訴訟
2019/06/18
お父さんが遺言書を作成していたが,
お父さんがこんな遺言書を作成するはずがない!
被相続人の方がお亡くなりになり,悲しみにくれていたら
他の共同相続人が勝ち誇った顔で
遺言書を出してきた!
というケースはよくあり,
遺言書の効力をなんとかできないか
というご相談はよくお受け致します。
遺言は,遺言なさった方の最終意思ですから,
相続人の方は,
遺言者の最終意思が本当にそのような考えであったのなら
尊重したい,尊重すべきというお考えを本当はお持ちなのです。
しかし,それまでの経緯から
遺言者がそのような遺言を作成するのは
おかしいな,不自然だな,
本当に遺言者がそのような意思を有していたなんて信じられない
遺言者に裏切られた思いがして悲しい
とお考えになる方はよくいらっしゃるのです。
そして,
遺言が本当に遺言者の最終意思であるならば
遺言者の考えを尊重すべきなのはその通りですが
仮に
遺言が遺言者の真の最終意思ではなかった場合
遺言が誰かの不当な関与で歪められてしまったために作成された場合
遺言者のためにも
遺言は無効にされてしかるべきです。
このコラムでは,
遺言が真に遺言者の最終意思が記載されているのかについて
疑問に感じられた方に対し,
遺言がどのような場合に無効になるのか
情報を提供して参ります。
遺言の無効原因
遺言の効力を争う原因としては,次のような原因があります。
遺言の方式違反
遺言書の偽造
錯誤・詐欺強迫
公序良俗違反
遺言無能力
などです。
以下では,これらの原因をもう少し詳しくご説明いたします。
遺言の方式違反
遺言には,法律上さまざまな要件が規定されており,
法律上規定されている要件に違反していると
せっかく作成した遺言書が無効になってしまいます。
遺言書が無効になるとどうなるかと申し上げますと
遺言書通りに相続することはなくなり
遺産分割協議をして法定相続分通り相続することが原則になります。
具体的に,方式違反についてご説明いたします。
例えば,自筆証書遺言という遺言があります。
自筆証書遺言というのは,
要するに,遺言書が自筆で書いて遺言するというものです。
専門家の立ち会いなども必要とされていませんし
遺言書を書くペンも用紙もどんなものを使用してもいいので
費用をかけずに遺言書を作成したい場合は
自筆証書遺言を作成するという方法が考えられます。
しかし,この自筆証書遺言が有効になるための要件は,
結構細かくて厳しいのです。
この要件は平成30年の相続法改正により
若干緩和されたのですが
それでもやはり厳しいといわざるを得ません。
この厳しい法律上の規定に違反している遺言書は,
無効となってしまいます。
裁判所は,方式違反については
本人が真実そのように考えていたか否か
という視点が大切なのはもちろんなのですが,
それよりも
形式的な方式違反があるのか否か
その方式違反がどのような意味合いを持っているのか
という視点で判断することが多いです。
そのため,
遺言無効確認訴訟を提起された場合は
被相続人は本当にそのような意思を有していたにもかかわらず,
形式的なミスがあったばかりに無効と判断されて
悔しい思いをすることもあるかもしれません。
そういうわけで
自筆証書遺言の場合は
方式違反による無効の可能性をまずは検討すべきです。
遺言書の偽造
次に,遺言書が偽造された場合も
無効原因となります。
偽造が問題となる遺言書も
ほとんど自筆証書遺言です。
遺言書が偽造か否かについて
どうやって判断するかということですが,
遺言者の筆跡か否か
遺言者は自筆することができたか否か,できるとしてもどこまで自筆できるか
遺言書はどのような体裁か,書体か
遺言内容は合理的か否か
遺言の保管状況
などを検討することになります。
訴訟では,
遺言者の従来の筆跡がわかる書類などが提出されますが,
筆跡鑑定が提出されることもあります。
しかし,筆跡鑑定は,恣意的な鑑定になることも多いと考えられており
裁判所は,その信用性の判断については
非常に慎重です。
結局は総合的に評価されることになります。
錯誤・詐欺強迫
遺言者がかんちがいして又は騙されて強迫されて
遺言書を作成したなどという場合です。
遺言者が遺言を作成した経緯が重要となります。
公序良俗違反
公序良俗違反とは
簡単にご説明いたしますと
社会的に到底容認できないような事情がある場合に
主張されます。
例えば,不倫相手に遺産を全部遺贈するなどといった場合
が考えられます。
この場合でもこの事実のみでは公序良俗違反にはならないのですが
その他の具体的事情次第で公序良俗違反になりえます。
遺言無能力
最後に遺言無能力のご説明を致します。
遺言者が遺言をするためには
遺言能力が必要とされています。
もう少し簡単にご説明すると
遺言者が有効に遺言をするためには
遺言した当時,
遺言の内容と遺言をしたことによる結果を
理解することができる能力
が必要とされます。
民法上,遺言は15歳以上でないと作成することができないのですが,
この遺言能力は,
大体7歳くらいの知能
と考えられています。
そして,遺言が作成された時期が
遺言者が何らかの精神上の疾患により判断力が衰えていた時期
であった場合,遺言能力の有無がしばしば問題となります。
遺言能力の判断のためには
医学的判断を基本にして
遺言がどういった経緯で作成されたか
遺言がどのような状況下で作成されたか
遺言の内容がどれくらい難しいか(遺言者が内容を理解できるか)
遺言の内容が合理的か,遺言者にそのような遺言を作成する動機があるか
などが検討されることになります。
遺言能力に影響する精神疾患としては
認知症
統合失調症
せん妄など
があります。
もっとも,
認知症やその他の病気があれば
すぐに遺言能力がないと判断されるわけではありません。
病気の程度と遺言の内容の難易度との相関関係にもよりますし
そのような遺言を作成するようなそれなりの動機が窺われるかとか
遺言により利益を受ける人間が
その遺言が作成されるまでの経緯に
何らかの不当な関与をしていないかなど
総合的に検討して判断されることになります。
上記では,自筆証書遺言の話がでましたが,
公証人が関与する公正証書遺言も
遺言能力がないとして無効となるケースも
最近は増えています。
公正証書遺言は,
公証人が関与して遺言を作成する遺言ですが,
公証人は,元裁判官だったり,元検事だったりするので,
公正証書遺言は,それなりの信用性があると考えられている遺言です。
しかし,公証人は,
遺言を作成するときに初めて遺言者と会うことも多いこと
実務では,公証人と遺言者が会って公正証書遺言を作成するときまでに
遺言の文面が既に出来上がっていることなどの事情があるため,
公証人が遺言者の遺言能力についてどこまで判断できるかという点が指摘されています。
具体的には,公正証書遺言は,
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する(遺言の内容を口で伝える)
という手順を法律上踏まないといけないのですが
この手順は,遺言能力を担保するような効用があるところ
実務では予め遺言の文面が出来上がっていることもあり
公正証書遺言は
本当に遺言者の遺言能力を担保するのかという点が疑問とされているのです。
そのような事情から,
最近では,公正証書遺言であっても
その他の事情に鑑み
遺言能力が無効と判断される場合も増えているのです。
以上ですので
公正証書遺言であっても
とりあえず
カルテや介護施設の入所記録等介護関係資料
を取り寄せて
遺言者を介護していたヘルパーさんなどの話も聞き
遺言作成当時の遺言者の精神状態が
遺言の内容を理解することができたか否か
そのような遺言を作成するような動機があるか否か
それまでの経緯などを合わせて検討して
遺言能力があったのか否か
検討して考えてみることが大事です。
最後に
残された遺言が
真に遺言者の最終意思であれば
相続人の方としては
それが自分に不利益なものでも
やはり従わなくてはいけません。
しかし,
本当に遺言者の希望なのか
本当に遺言者が思っていたことなのか
遺言者の想いは遺言者にしかわかりません。
遺言無効確認訴訟で
どこまで遺言者の真意に近付けるかわかりませんが
遺言無効確認訴訟は
少しでも相続人の方が
遺言者の真意の実現に近付ける一つの方法となっております。
参考文献
判例タイムズNo.1423 15ページ
「遺言能力(遺言能力乗り理論的検討及びその判断・審理方法)
土井 文美裁判官
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