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遺産分割の前に〜養子は必ず相続人になるのか?〜

2019/08/30公開

 

 

 

お兄ちゃんの子どもが
亡くなったお母さんと養子縁組をしていた!
お兄ちゃんは,
自分の子どもも相続人だと
言っている!

 

このようなことはよくあります。

 

このような場合
養子縁組により
相続人が一人増えてしまうことになれば
遺産分割の際
自分の具体的相続分が減ってしまいます。

 

でも,ちょっと待って!
お母さんはずっと認知症だったのに
養子縁組できるの?
という場合や
お母さんは,相続税の節税対策だと言っていたけど
ただの相続税の節税対策なんだから
遺産分割には関係ないんじゃないの?
と疑問に感じる場合もあるでしょう。

 

今回は,遺産分割の前に問題となる
養子縁組無効確認請求訴訟
についてご説明いたします。

養子は相続人になるの?

 

この点は,
養子は,
他の実の子と平等の割合で
相続人になるというのが答えです。

 

ですから
兄弟は二人だけだけど
お兄ちゃんの子ども(要するにお母さんの孫)が
被相続人であるお母さんの養子になっていた
という場合は
(なお既にお父さんは亡くなっていることにします)
相続人は,2人ではなく
お兄ちゃんの子ども(孫)も含めた3人
ということになり
相続分は,
各2分の1ではなく
各3分の1ということになります。

 

したがいまして
被相続人が孫などの誰かを養子にしていた場合
相続分が減ってしまうため
遺産分割をする前に
相続人が養子縁組の効果を争う
ことがしばしば行われます。

 

以下では,
既に届出がなされている養子縁組について
効果を争う場合に行われる
養子縁組無効確認請求訴訟
についてご説明いたします。

養子縁組の効果を争う場合によく問題となる争点

 

養子縁組が有効となるための要件は
様々あるのですが
遺産分割の場面では
既になされている養子縁組が問題となっていますので

 

被相続人に縁組意思が本当にあったの?

 

という点がよく争われます。

養子縁組の縁組意思って何だろう?

 

養子縁組をするためには,
婚姻届のように
市役所等に養子縁組の届出を提出する必要があります。

 

ですから
市役所等に
養子縁組届を提出しようという意思(届出意思)
は当然必要ですよね。

 

では,養子縁組を有効に行うためには
この届出意思さえあればいいのか
という問題点があります。

 

通常養子縁組をする場合は
本当の意味で養親子関係の設定をする意思で行われるものです。

 

しかし
本当は真に養親子関係を設定したいからではなく
他の目的がある場合にも
養子縁組届を提出すれば
形式的に養親子という身分を取得することができ
他の目的が実現できる場合があるので
その目的達成のための手段として
養子縁組が行われる場合があるのです。

 

もっとも,
最高裁判所昭和23年12月23日判決は
当事者間に真に養親子関係の設定を希望する意思がなく
他の目的を達成するための便法として
仮託されたものに過ぎないときには
養子縁組は無効
であると判断しています。

 

この養親子関係の設定をする意思と
は一体どういう内容かについては
争いがあるのですが
伝統的通説としては
社会一般の習俗的標準に照らして
親子と認められるような関係
を創設しようとする意思
と考えられています。

 

相続税の節税目的で養子縁組をした場合はどうなる?

 

では,相続税の節税目的で養子縁組をした場合は
どうなるでしょうか。

 

養子縁組をして相続人を増やすと
実は相続税を節約することができるのです。

 

具体的には,
被相続人に実子がいれば1人まで
被相続人に実子がいなければ2人まで
養子にすると
相続税の節税の効果が得られることになっています。

 

そのため,遺産分割の場面では
被相続人は,推定相続人(子ども)のことも考え
相続税の節税のため
孫と養子縁組を行う場合があるのです。

 

では,この相続税の節税目的の場合に
縁組意思があるといえるのでしょうか。

 

この問題については,
最高裁判所平成29年1月31日判決は
相続税の節税のために養子縁組をすることは
節税効果を発生させることを動機として
養子縁組をすることにほかならず
相続税の節税の動機と縁組をする意思とは
併存しうるものであると判示して
したがって,
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても
直ちに当該養子縁組について
民法802条1号にいう
「当事者間に縁組をする意思がないとき」
に当たるとすることはできない
としました。

 

なお,これは,
相続税の節税の動機があれば
絶対に養子縁組が無効とならない
ということではないと考えられています。

 

あくまでも
専ら相続税の節税の動機のために養子縁組をしたことが
すぐに無効原因になるわけではないことを
判示したものにすぎません。

 

相続税の節税のための便法として
養子縁組を仮装したような場合には
やはり養子縁組は無効になると思われます。

 

要するに,
専ら相続税の節税目的があるという事情以外で
当事者間に縁組意思をする意思がないことを
うかがわせるような何らかの事情がある場合には
養子縁組は無効になる可能性があると
考えられています。

 

その点は,検討が必要でしょう。

養子縁組の無効原因

 

ここで
養子縁組の無効原因を考えてみましょう。

 

まず,そもそも届出意思がないことがあげられます。

 

市役所に提出された養子縁組届が
被相続人により作成されていないような場合は
届出意思がそもそもあるのか
が問題になります。

 

次に,上記で検討した縁組意思がないのではないか
という点を検討することになります。

 

そのため
養子縁組を行った目的や理由が検討されます。

 

また
よく問題となる無効原因としては
縁組意思の前提となる意思能力がないのではないか
ということが問題となります。

 

認知症などで
養子縁組から発生する身分上又は財産上の結果を
理解できないのであれば
養子縁組を有効とすることは
当然できないですよね。

 

必要な意思能力の程度としては
親子関係を人為的に設定する意義を
常識的に理解しうる程度の能力で足りる
とされていますが
養子縁組により
扶養義務なども発生するわけですから
成人間の養子縁組については
知能年齢5,6歳では足りない
とした裁判例もあります。

 

したがいまして,
ある程度の能力は必要とされているのです。

 

そのため
被相続人が
養子縁組当時,認知症などの症状を有しており
養子縁組の結果や効果を
理解できそうになかった場合には
養子縁組が無効になる可能性があります。

養子縁組無効確認訴訟の立証方法

 

まず、
市役所に提出された養子縁組届を取り寄せ
筆跡を確認することになります。

 

筆跡が本人のものではない場合は
訴訟では
両当事者が
明らかに被相続人の筆跡であると認められる過去の筆跡を証拠として提出して
過去の筆跡と比較対照して養子縁組届の筆跡との異同を主張したり
筆跡鑑定書が提出されたりします。

 

実際に被相続人が養子縁組届を作成した場面に立ち会った人がいる場合は
その人の証人尋問なども行われることもあります。

 

意思能力が問題となっている場合は
養子縁組が無効になるかどうか判断するため
カルテや介護記録などを取り寄せ
医師の意見を聴いてみることが
必要となります。

 

長谷川式簡易知能評価スケールの検査結果なども
有用です。

 

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