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特別受益と生活費〜生計の資本としての贈与と扶養との関係〜

2019/06/24

 

放蕩息子だった次男は,お父さんから毎月生活費を送金されていた!
合計すると結構高額になっているけど遺産分割では考慮してくれないの?

 

このような疑問をお感じになられた方
遺産分割,遺産分割調停などでお困りの方へに向けて
このコラムでは情報を提供しております。

特別受益とは?

 

特別受益とは,
遺産分割の際に,共同相続人の実質的な公平を実現するため
民法にて規定された法制度です。

 

具体的には,
被相続人が生前
相続人の誰かに不動産などの多額の財産を贈与していたり,
相続人の誰かに遺贈をしていたりした場合,
それを無視して
遺産分割時に残った相続財産だけを
法定相続人に法定相続分通り分割するのではなく,
生前に贈与または遺贈されてすでに相続財産から逸失している財産が
遺産分割時にまだ相続財産に存在しているかのように
贈与または遺贈されたものを相続財産に「持ち戻して」計算し,
誰がいくら相続するかを決めるという制度です。

 

要するに,
特別受益の制度とは,
各共同相続人の取得すべき遺産の金額を
(死亡時の遺産の金額+贈与の金額)×相続分率
と計算し,
贈与を受けた相続人の取得すべき遺産の金額を
(死亡時の遺産の金額+贈与の金額)×相続分率−贈与を受けた金額
と計算する制度のことです。

 

特別受益に該当するためには,
民法903条の要件を充足する必要がありますが,
具体的には,
婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として
贈与を受けたか否かをいう点が問題となります。

生計の資本としての贈与

 

生計の資本としての贈与があったとされるためには
贈与の合意がなされた事実があるか
それが生計の資本としてなされたことと評価できるか
という点が問題となります。

 

ですので,
相続人が勝手に預金通帳から引き出したなどという場合は,
別の問題になりますので,ご留意ください。

 

生計の資本といえるか否かですが,
贈与金額やその贈与がどのような趣旨で行われたか
という点を検討しなければなりません。

 

一般には
相続の前渡しと評価される必要がありますので
ある程度高額の金員の贈与が必要とされます。

 

では,例えば,毎月25万円の送金が比較的長期間あった場合など
1つ1つの送金は,相続の前渡しと評価されるほど高額ではなく
特別受益とは言い難いとしても
比較的長期間継続しているため,
合計金額としては多額になってしまっている場合は
どうなるのでしょうか。

 

この場合も
やはり特別受益にならないのでしょうか。

 

考えていきましょう。

 

生計の資本としての贈与と扶養との関係

 

ここで,忘れてはならないことがあります。

 

夫婦は,互いに扶助義務を負っていますし(民法752条),
直系血族及び兄弟姉妹は,
互いに扶養義務を負っている(民法877条1項)
ということです。

 

また,場合によっては,
3親等内の親族間にも
扶養義務が負わされることもあります(民法877条2項)。

 

そのような中,上記でも記載いたしましたとおり,
ある程度高額ではなくて
少額の金銭を比較的長期間給付したとしても
「相続の前渡し」があったとして特別受益になるというよりは
扶助義務または扶養義務の履行と評価されて
特別受益にはならないとされるのではないか
ということです。

 

この点は,
東京家庭裁判所平成21年1月30日審判があります。

 

この審判では,
約2年間にわたり,月に2万円から25万円の送金がなされていましたが,
遺産総額や被相続人の収入からすると
月に10万円以上の送金については
生計の資本としての贈与と認め,
10万円未満の送金については
親族間の扶養的金銭援助にとどまるとされました。

 

婚姻費用や扶養料が
収入などから決まることからいっても
全ての人で10万円以上の送金が
特別受益になるわけではありません。

 

あくまで遺産総額や被相続人の収入により
特別受益になり得る金額が変わります。

 

なお,同じ審判で
上記で送金を受けていた法定相続人は
被相続人に自分の子(被相続人からすると孫)を預け,
3歳の頃から高校卒業までの15年間
養育してもらっていたとのことです。

 

法定相続人としては,
自分が親として負担しなければならなかった扶養料を払わずに済んだ
ということになりますが,
裁判所は,
これは法定相続人に対する生計の資本としての贈与とは
直ちには言えないし
被相続人は,自分の相続の際に,
自分の孫の養育費用の負担を
その法定相続人の特別受益として考慮すべきとは
考えていなかったのではないかと推認し,
黙示的な特別受益の持戻し免除の意思表示があった
として,
どちらにしても特別受益とはいえないとしています。

最後に

 

毎月の生活費について特別受益とすべきではないかと
お考えになる方もよくいらっしゃるのですが,
夫婦や親族であれば
扶養義務がありますので
すぐに特別受益ということは難しいですが
扶助義務または扶養義務を超える送金などは
たとえ生活費だったとしても
特別受益になる場合もあります。

 

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