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特別受益の持戻し免除の意思表示

2019/08/06

 

 

 

 

被相続人から生前,多額の贈与等を受けていた――ー。

 

そのような場合,
遺産分割協議や遺産分割調停では
特別受益の主張をされる場合は
よくあります。

 

また,遺言書があり,遺留分侵害額請求(旧法の遺留分減殺請求)をされる場合も
特別受益の主張をされる場合はよくあります。

 

特別受益の主張をされたら
絶対に遺産に戻されて計算されるのでしょうか。

 

下記のようにお考えになる方はよくいらっしゃいます。

 

 

 

私は,お父さんから,30年ぐらい前に,
自宅不動産の贈与を受けました。
お父さんは亡くなり,弟との間で遺産分割調停になったのですが,
弟から,私が30年ぐらい前に贈与を受けた不動産について
特別受益を主張されました。

 

でも,お父さんがその不動産を私に贈与した理由は
私が家業の農家を継ぐからというものでした。
そのため,
お父さんとしては,私と弟の間で自分の遺産分割の話し合いをするときに
その不動産を除いて
具体的相続分を計算するだろう
と思っていたと思います。

 

どうすればいいでしょうか。


 

このコラムでは,特別受益の主張をされた場合に
対抗することはできないのか
ご紹介いたします。

特別受益

 

特別受益は,
共同相続人が,被相続人から遺贈を受け,
又は生前に婚姻,養子縁組のためだったり
生計の資本として贈与を受けた者がある場合は,
その受益額を遺産の総額に持ち戻して相続財産とみなし,
みなされた相続財産を前提に
具体的相続分を計算する
という制度です(民法903条1項)。

 

具体的には
各共同相続人の取得すべき遺産の金額を
(死亡時の遺産の金額+贈与の金額)×相続分率
と計算し,
贈与を受けた相続人の取得すべき遺産の金額を
(死亡時の遺産の金額+贈与の金額)×相続分率−贈与を受けた金額
と計算する制度のことです。

特別受益の持戻し免除の意思表示

 

上記のような特別受益の制度は,
共同相続人の公平をはかることができますし
それが被相続人の通常の意思であろうと推測されることから
定められたものです。

 

したがいまして,
被相続人が特別受益の持ち戻しはしてほしくない!
すなわち,
生前に贈与した分は,
遺産分割でもらえるはずの分とは
別枠で贈与したのに
遺産分割で考慮されたら困る
という意思を表示している場合は
これに従うことになるのです。

 

すなわち,
被相続人は,意思表示によって
特別受益を受けた者の受益分の持ち戻しを
免除することができるのです(民法903条3項)。

 

具体的には,
被相続人は,相続開始時までに,
特別受益を遺産分割において持ち戻す必要がない旨,
明示又は黙示に意思表示をしていれば,
持ち戻し計算をする必要はないとされています。

 

これを
特別受益の持戻し免除の意思表示
といいます。

黙示の持戻し免除の意思表示

 

「明示」とは,
その名の通りはっきりと
「持ち戻しは免除します」
と遺言書などで明らかにしている場合
が挙げられます。

 

では,「黙示」とは
どういった場合があるのでしょうか。

 

「黙示」は
持戻し免除したいことを
遺言書などで明らかにはしていないが
被相続人が
特定の相続人に相続分以外に
財産を相続させる意思を有していたことを
推測させる事情がある場合に認められます。

 

黙示の持戻し免除が認められる場合としては,
具体例としては,以下の場合が考えられます。

 

特定の相続人による家業の承継の必要性があり,
相続分以外に農地などの財産を相続させる必要がある場合

 

被相続人が贈与の見返りに利益を受けている場合
例えば,
被相続人の所有土地の上に
相続人が自宅建物を建築したが,
それは,被相続人と同居し,被相続人の面倒をみることが
前提とされていたような場合などが
考えられます。

 

特定の相続人が病気やその他の理由などにより
経済的に苦しい状況にあるなどのような
特定の相続人に
相続分以上の財産を必要とする
特別な事情がある場合

 

相続人全員に
贈与をしたり遺贈をしたりしている場合も
考えられます。

持戻し免除の意思表示の推定規定

 

令和元年7月1日から施行された相続改正法では
婚姻期間が20年以上の夫婦間でされた
居住用不動産の贈与等について
持戻し免除の意思表示
を推定する規定が設けられました(民法903条4項)。

 

ですので,
婚姻期間20年以上の夫婦間での贈与については
持戻しがされないことが原則となりました。

 

これは,法律上の推定ですので
他の共同相続人から
被相続人に持戻し免除の意思がないことを反証されれば
特別受益として考慮されることもありえますので
その点ご留意ください。

最後に

 

遺産分割の協議,調停などで
共同相続人から
特別受益の主張立証がなされたとしても
被相続人に持戻し免除の意思表示があったことが認められる場合は
特別受益として考慮されないことになります。

 

特別受益の話が出てきた場合は
岡山の安原法律事務所に
ご相談ください。

 

 

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