家族のための終活のススメ〜本当に自筆証書遺言は利用しやすくなったのか?〜
自分の家族は,仲がいいから,自分が死んでも相続はなんとかなるだろう。
あの子は,自分の家業を継ぐから,自分の財産のほとんどをやる必要があるな。
あいつは,放蕩息子だから,何もやりたくない!
あなたから見て家族の仲がよくても,あなたの死後は仲違いするかもしれません。
遺産相続で,仲のよかった家族がバラバラになることはよくあります。
あなたの死後も家族が仲違いしないようにしたい方も,
自分の財産は自分の死後も自分の意向に沿って処分して欲しい方も,
遺言を作成して,自分の意思を表明しておいた方がいいです。
遺言とは,皆さんもご存じだとは思いますが,
生前に自分(遺言者)の死後自分の財産をどうしたいか意思表示して,
自分の財産を処分する行為です。
遺言者は,遺言を作成しておくことで
自分の最終的な意思の実現を図ることができます。
そして,遺言の作成方法は,いろいろあるのですが,
その中の一つに,自筆証書遺言があります。
自筆証書遺言は,遺言者が自分1人だけで作成することができる遺言です。
自筆証書遺言は,従来非常に厳しい要件が法定されており,
方式を少しでも誤ると,無効とされていました。
そのため,自筆証書遺言は,使いづらいとされてきたのです。
しかし,平成30年7月6日に相続法が改正され,
自筆証書遺言の方式の緩和が定められました。
自筆証書遺言の方式の緩和については,
平成31年1月13日に施行されています。
自筆証書遺言の要件(民法968条)
自筆証書遺言は,以下の要件を満たす必要があります。
@ 遺言者が全文,日付及び氏名を自書する。
A 遺言者が遺言書に捺印する。
B 平成30年改正法により,遺言書に財産目録を添付する場合は,その目録のみ自書でなくてもよくなった。
しかし,その目録の各頁に署名押印をしなければいけない。
C 遺言書に加筆削除その他の変更を加えた場合は,法律により定められた方式で行う。
以上の要件を満たさない場合は,遺言は無効になります。
遺言書全文の自書
遺言者は,財産目録以外の遺言書の全文を
自分の手で書く必要があります。
もっとも,何らかの理由により,口や足で書く場合も自書と認められます。
1 筆跡
自書か否かの判定は,
まず筆跡により判断されるべきであるとされています。
しかし,遺言書に記載されている筆跡は,
遺言者の病状等にも影響して普段の筆跡と異なる場合もあり,
筆跡では判断できない場合もあります。
その場合は,
遺言の内容,関係者との関係,事情,
遺言書発見の経緯,押印等のいろいろな状況証拠
を総合して判断されます。
裁判では,筆跡鑑定がなされる場合もありますが,
筆跡鑑定は,鑑定次第で結論が変わることも多く,
証明力には限界があると考えられています。
2 自書能力
自書と評価されるためには,
遺言者に,文字を理解していて,かつ筆記する能力
が必要であるとされています。
それでは,遺言者が他人の補助を受けて書いた遺言書は,どうでしょうか。
遺言者が視力に障害があり,手が震えていたなどの事情があり,
遺言者の妻などが遺言者が持ったペンを握って添え手をして書かせた
などの場合がありました。
この場合は,原則自書能力がないとして,無効となるのですが,
添え手をした人間の意思が遺言の文字に介入した形跡がないなど
いくつかの要件を充足した場合には
例外的に有効となるものと考えられています。
3 機械等の使用
財産目録以外は,
パソコンやワープロ,点字機等を使用することはできません。
録音テープやビデオに録音録画した遺言書も
自書したものではないので,無効であると解されています。
もっとも,自筆証書遺言を作成するときに録音や録画をとっておくことは,
遺言書が遺言書を作成した状況等を証拠保全するので,
遺言書にはなりませんが,
証拠保全という意味で録音録画をとっておくのはいい方法であると考えます。
4 財産目録
平成30年相続法改正により,
財産目録(不動産の表示や預貯金の口座番号等を記載して相続財産を特定する目録)
を遺言書に添付する場合,
財産目録だけは,
自書ではなく,パソコン等を使用して
作成することができるようになりました。
財産目録として,
不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等
を財産目録として添付することも許されるとのことです。
しかし,財産目録以外は,
やはり全文自書することが必要ですし,
自書ではない財産目録の全ての用紙には
遺言者が自筆で署名押印する必要があります。
法律上は「全ての用紙」とされているのみですので,
署名押印するのは表裏問わないとされています。
ですので,財産目録が用紙の片面にしかない場合は,
白紙の裏面に署名押印してもよいとされています。
ですが,仮に財産目録が両面の頁になっている場合は,
その両面に署名押印しなければならないとされていますので,
注意が必要です。
また,自筆証書遺言には,署名押印が必要とされていますが,
財産目録に行う署名押印と自筆証書遺言に要求される署名押印は,
別物ですので,
財産目録の全頁に署名押印を行っても,
自筆証書遺言の本文にもきちんと署名押印は行いましょう。
さらに,財産目録を添付する場合,
契印は法律上不要と考えられています。
もっとも,遺言書の一体性を確保した方がいいと思いますので,
法律上要求されていませんが,
契印をしたり,同一の封筒にいれて封緘したり,遺言書全体を編綴したりした方が
よろしいかと考えます。
なお,
1枚の紙に,自筆の本文とパソコンで作成した財産目録を一緒にすること
はできないとされていますので,ご注意ください。
遺言書の日付
遺言者は,遺言書を作成した日付を自書しましょう。
この時,
何年何月何日
であるのかきちんと記載することが必要です。
たまに,「令和元年5月吉日」などと記載している遺言書もありますが,
裁判所は,無効と判断しています。
この日付については,
真実遺言書を作成した日付を記載するべきであります。
多少のズレであったり,誤記であることが明らかであったりする場合は,
有効であると判断されることもありますが,
無効とされる場合もあります。
遺言者の氏名の自書
氏名は,戸籍上の氏名と同一である必要はないとされており,
遺言者が日常使用している通称,ペンネーム,芸名,屋号なども,
同一性がわかるのであればよいとされています。
遺言書への押印
そして,自筆証書遺言が有効になるためには,
押印が必要です。
印鑑は,実印でなくても大丈夫です。
三文判等で構いません。
裁判例は,指印でも有効であると判断しています。
遺言書への加筆削除その他の変更
民法968条2項は,
遺言書に加筆削除その他の変更をするときは,
遺言者がその場所を指示し,変更した旨を付記して
特にこれに署名し,
かつその変更の場所に押印をしなければ
効力を生じないとしています。
この加筆削除その他変更が定められた方式を実践していない場合は,
遺言書は加筆削除その他の変更がなされていないものとして扱われます。
最後に〜本当に自筆証書遺言は利用しやすくなった?〜
以上のとおり,
自筆証書遺言は,平成30年改正法より,
ほんの少し作成しやすくなりました。
しかし,財産目録以外は,全文自筆で行う必要があり,
加筆削除その他の変更(訂正)を行う場合には,
あいかわらず厳しい要件が定められています。
一般の方からすれば,やはり使いづらいのは変わらないと思われます。
したがいまして,遺言書を作成したい場合は,
やはり弁護士などの専門家にご相談なさった方がよろしいかと考えます。
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