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遺産分割の前に預貯金の払い戻しはできないか?

2019/06/10

 

お父さんが亡くなって,お父さんの預貯金の引き出しができなくなった!
遺産分割はまだ終わっていないんだけど,
お父さんの預貯金を引き出したい!

 

誰かが亡くなると
皆さんご存じのとおり
亡くなった方の名義の預貯金は凍結し,
その口座から引き出しすることはできなくなります。

 

このコラムでは,上記のような場合に
預貯金を引き出す手段はないかについて,記載いたします。

預貯金は,遺産分割の対象になるの?

 

まず,前提として
預貯金は,遺産分割の対象になるのかという点が
問題になります。

 

当たり前でしょ!
と皆様はお考えになるでしょうが
実は以前は
預貯金は当然には遺産分割の対象にならない
と考えられていたのです。

 

遺産分割の対象にならないんだったら,どうなるのかというと
相続人が遺産分割とは関係なく
単独で銀行等に対し法定相続分について払い戻しを請求することができる
と考えられていたのです。

 

ですが,
相続人全員の同意があれば,遺産分割の対象とできると
実務では考えられて運用されていましたので
ほとんどの場合は
相続人全員の同意の下
相続人が勝手に銀行に払い戻しを請求するのではなく
誰がどの預貯金を相続するのかを
遺産分割協議してその帰属を決めていました。

 

そして,銀行などは,そのような実務の流れがあったことから
当たり前のように相続人全員の同意を確認してから払い戻す
という運用を行っていたのです。

 

銀行などが運用上相続人全員の同意を求めていたのも
預貯金について
本当は法律上遺産分割の対象ではない(全相続人の合意の必要性はない)
とされながらも
事実上ほとんどの場合であやふやなまま
遺産分割の対象とされていたことから(全相続人の合意が必要)
一人の相続人に払い戻すリスクを回避する必要が生じたため
仕方のないことだったのかもしれません。

 

もっとも,法律上は
相続人が単独で法定相続分の払い戻しを請求することができる
とされていましたので
他の相続人の同意がなくても
訴訟を提起するなどの手段を講じれば
銀行などは,払い戻しに応じていたのです。

 

しかし,最高裁判所は,それまでの判例を変更し
預貯金についても遺産分割の対象となる
と判示しました(最高裁判所平成28年12月19日決定)。

 

すなわち
相続人は,単独で預貯金の払い戻しを請求することができない
とされたのです。

 

そのため,それ以降,
遺産分割がなされるまでは
全相続人の同意がないと
預貯金の払い戻しをすることができなくなりました。

 

遺産分割の前の預貯金の払い戻しの制度

 

しかし,預貯金が一切払い戻せないとすると
被相続人の借金の支払いを求められた!
被相続人の預貯金がないと生活が苦しい!
遺産分割まで待ってられない!
といったことが起こりえます。

 

でも,相続人同士仲が悪くて
同意してくれない
という場合はよくあることです。

 

そのため,令和元年7月1日以降は
遺産分割前にも単独で預貯金の払い戻しができるようになりました。

 

もっとも,上限額があります。

 

具体的には,
相続開始時の預貯金の額×3分の1×払い戻しを請求する相続人の法定相続分
と計算される金額であり,
さらに,同じ金融機関に対する請求金額は,
150万円を上限とします。

 

例えば,相続人が母,兄,弟の3人だった場合で
A銀行に普通預金1000万円,定期預金500万円あった場合
を考えてみましょう。

 

お母さんが単独で払い戻しができる金額は,
(1000万円+500万円)×3分の1×2分の1
=250万円
と計算できますが,
上限額は,150万円なので
150万円を単独で請求することができることになります。

 

お兄ちゃん又は弟が単独で払い戻しができる金額は,
(1000万円+500万円)×3分の1×4分の1
=125万円
と計算でき,この数字は,150万円以下なので
125万円を単独で請求することができることになります。

 

さらに,B銀行にも預貯金があった場合も
上記と同様の計算をして算出された金額につき
150万円以内で認められます。

その後の遺産分割での流れ

 

このように,預貯金の一部を払い戻された場合
その後の遺産分割ではどのように取り扱われるのでしょうか。

 

この制度により預貯金の一部の払い戻しを受けた場合
払い戻しを受けた相続人は,
遺産の一部分割により取得したものと
みなされることになります(民法909条の2)。

 

どういうことかというと
上記の具体例では,
お母さんは,遺産から150万円を既に取得した
とみなされるということです。

 

そのため,
仮に遺産分割の協議をして
特別受益や寄与分などがあることが判明して,
お母さんがこの遺産分割で本当に相続すべきだった金額(具体的相続分)が
100万円しかなかった!
という場合は
お母さんは,遺産を50万円取り過ぎてしまったということになりますので,
お兄ちゃんと弟に対し,
代償金を支払って清算しなくてはならないということになります。

 

仮分割の仮処分

 

以上のように
預貯金について一部の払い戻しを認める制度ができました。

 

しかし,
上限額が150万円なんて足りないよ!
という場合はどうしたらよいのでしょうか。

 

この場合は,
遺産分割の調停又は審判が係属している家庭裁判所に
仮分割の仮処分を申し立て,
家庭裁判所に要件を充足していると認めてもらえる場合は
預貯金を仮に取得する
ということができる場合があります。

 

要件としては
遺産分割の調停または審判が係属していること
預貯金の払い戻しを受ける必要性があること
他の相続人の利益を害しないこと
といった要件を充足する必要があります。

 

また,上記の預貯金の一部払い戻しの制度が
単独で行使できるのとは異なり
家庭裁判所は,他の相続人の陳述を聞く必要がありますので
その点で少しハードルが上がります。

最後に

 

以上のとおり,
預貯金が凍結されて困っている!
という場合も
一部払い戻しを請求する制度ができました。

 

遺産分割が長期化した場合
遺産は沢山あっても
手元にあるお金がなくて支払いに困る場合なども多々あります。
うまく制度を活用して
遺産分割を乗り切っていきましょう。

 

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